最近、よく耳にするAIやIoT。
AIはなんとなく分かっても、IoTはITとよく似ている言葉であり、何を意味するのかいまいちイメージしづらいかもしれません。
IoT技術は、私たちのライフスタイルや産業を革新すると考えられています。
本稿ではIoTの定義や、IoTがもたらす恩恵、リスクについて解説します。
IoTとは何か?
デジタル化が叫ばれる昨今、一端を担う技術として注目を集めているIoT。
「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」と訳されます。
従来、インターネットでつながる端末は、パソコンやスマートフォンなど一部の機器に限られていました。
IoT技術によって、ありとあらゆる「モノ」がインターネットに接続され、つながるようになります。
しばしば混同されるICT(Information and Communication Technology、情報伝達技術)やIT(Information Technology、情報技術)とは異なる概念ですが、無関係ではありません。
IoTは「ICTの製品応用」と言い換えることもできます。
近年ではインターネットを活用してソフトウェアを最新の状況に自動的に更新したり、音声ガイドを行ったり、データを一元的に管理できる家電が増えてきました。
IoTの身近な活用例はこうしたスマート家電製品です。
スマート家電には“スマート化”された冷蔵庫、オーブンレンジ、ロボット掃除機、テレビ、照明などのほか、スマートスピーカーがあります。
IoTが進むと、このような“スマートホーム化”や自動車の自動運転化が進み、ライフスタイルに劇的な影響をもたらすでしょう。
IoTの根幹となるのは、通信技術の著しい発達です。
1985年に通信自由化されましたが、家庭における通信端末は固定電話に限られていました。やがて、パソコンが回線につながるようになり、データ通信やインターネットが利用可能になりました。
その後、携帯電話の普及によってモバイル無線通信が一般化し、スマートフォンの普及でインターネットのモバイル化が進みました。
長年にわたる発展の歴史の末に、現在のIoTが花開く下地が整ったといえるでしょう。
IoTがもたらす社会的な恩恵とは
IoTはどうしてこれほど注目を集めているのでしょうか?
その理由はライフスタイルにとどまらず、産業全般に与える影響が大きいからです。
IoT機器には画像入力用のカメラや音声入力用のマイクのほか、センサーを取り付けることができます。
センサーとひとくちにいっても、加速度センサー・ジャイロセンサー・光センサー・画像センサー・温湿度センサー・圧力センサー・GPSセンサーなど多数の種類があり、幅広い用途への活用が可能です。
産業用途の具体例として、病院や工場などのセンサー機器や、自動車の車載カメラ、道路のセンサーなどに活用されています。
また、IoTは他の最先端技術と組み合わせることで本領を発揮し、大きな社会的恩恵をもたらします。
代表的な技術例は、AI(人工知能)と5G(第5世代移動通信システム)です。
AI
AIは経験から自動的に学習を行う柔軟性の高さが特徴です。
現在のところ、AIの学習には大量のデータが必要なため、データ収集に優れたIoTとの相性は抜群です。
たとえば、多数のカメラやセンサーがデータを収集し、取り入れた入力データの特徴を学習すると、自動的に最適なモーター制御を行うIoTデバイスが可能になります。
これにより、大量のデータが必要な自動制御、たとえば自動運転車が実現可能になります。
5G
国内では2020年に商用サービスを開始した5Gは、前世代のシステム(4G)と比べ、通信技術が飛躍的に進化しています。
5Gは4Gに比べ、20倍の通信速度をもち、遅延は10分の1であり、10倍のデバイスを同時接続できます。 この機能的利点によって、5GはIoTを実質的に支え、普及を後押しします。
このように、IoTはAIや5Gとの併用によって、ウェアラブルデバイスやロボットなどの機器に活用されています。
IoTに潜むセキュリティリスク
期待が高まる一方、インターネット接続を前提とするIoTには懸念もあります。
外部からのサイバー攻撃によって、不正アクセスやマルウェア感染などのリスクがあるからです。
この背景には、現状ではIoTのセキュリティ対策が進んでおらず、サイバー攻撃のリスクが高いことがあります。
従来、工場などの製造現場で使われるシステムは、外部との接続を行わないクローズな環境で稼働するため、セキュリティが保たれていました。
ネットワークとの接続によって、システムがオープンになることは利点もある反面、リスクと表裏一体です。
IoTにまつわる被害事例はいくつか報告されています。
2015年には電力企業の発電所内のIoT機器へのサイバー攻撃によって、大規模停電が引き起こされたウクライナでの事例が報告されています。
また、2016年にはIoT機器に感染するマルウェア「Mirai」がターゲットとなるサーバーに一斉アクセスし、サーバー障害を引き起こした事例もあります。
現場で用いられる既存の古いシステムは外部接続が想定されていないケースが多く、セキュリティが脆弱なため、サイバー攻撃の格好のターゲットになりがちです。
また、攻撃のターゲットになるのはIoT機器そのものに限りません。
国内工場の制御システムで使用されていた脆弱な古いOSがランサムウェア(データを暗号化し、身代金を要求するタイプのウイルス)に感染し、工場の稼働が停止した2017年の事例もあります。
つまり、IoT機器自体に万全なセキュリティが施されたとしても、IoT化が引き金になってシステムに被害をもたらすケースも想定され得るのです。
既存の機器をIoTとして活用する場合、機器だけでなく、データを蓄積するサーバーや端末のOS、クラウドなどを含めたシステム全体のセキュリティを総合的に見直す必要があるといえます。
まとめ
セキュリティに不安を残すものの、ネットワークをフルに活用するIoT技術は家電や産業用機器など、私たちを取り巻くあらゆる工業製品を劇的に変容させるポテンシャルを備えています。
「機械=モノ」という先入観を取り払い、機械に自律性を与えるIoTはより便利な社会を築くための夢の技術といえるでしょう。