ITの基本を解説 – AR(拡張現実)とVR(仮想現実)とは、その違いは?

「VR元年」と呼ばれた2016年から5年が経ち、認知の高まりとともに当初懸念された技術的・心理的障壁は下がりました。
ハードウェアは高性能で廉価になり、コロナ禍によるリモート化の波を経験したことで、さらなる普及への下地が整いつつあります。

本稿ではARとVRの活用事例について簡単に概説します。

AR(拡張現実)とVR(仮想現実)

AR(拡張現実)、VR(仮想現実)とは何か?

よく耳にするARとVRですが、違いはどこでしょうか?
共通点をまず説明すると、いずれも専用ゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)や専用スマートグラスを頭部に装着し、レンズ内部のディスプレイに投影されたバーチャルな映像を視覚的に感じるシステムであることです。

両者の違いは、映し出す空間です。

ARとは「Alternative Reality=拡張現実」のことで、私たちがいる”現実世界の空間”上にキャラクターの映像を重ね書きするイメージです。

一方、VRとは「Virtual Reality=仮想現実」のことです。
映し出されるのは”仮想空間”であり、ゲームの世界が自分のまわりに四方八方広がっているイメージです。
現実世界の空間を見ることはできません。 各技術をモチーフにしたSF作品で言うと、ARはアニメ『電脳コイル』、VRは映画『マトリックス』『レディ・プレイヤー1』の世界観に当たります。

SF世界観

ARとVRはいっけん似ていますが、ベースとなる空間が異なる(現実世界vs仮想世界)ため、ビジネス用途が異なることがあります。

ちなみに、似たような用語にMR(混合現実)技術があります。
現実空間がベースなのでARの一種といえますが、単なる重ね書きにとどまりません。

カメラやセンサーによって物体の位置情報を検出したり、複数のデバイスで他人と同時に体験したり、キャラクターなどの仮想物にも接触が可能で、インタラクティブ性が特徴です。

室内の風の流れや温度などを察知し、仮想空間上で任意の動作を加えることで、すぐさま現実空間の状態に反映できることが利点です。
MRは発展途上ですが、ARに比べ、より現実に近く優れた性質をもつことから、製造業や建設業など現場作業の業務改善に利用が期待されています。

AR(拡張現実)が利用されているサービスの事例紹介

ARの認知を一躍広めたサービスといえば、ゲーム「ポケモンGO」です。
もともとコアなファンの間で人気になっていた米ナイアンティック社の位置情報ゲーム「イングレス」にヒントを得た任天堂株式会社が同社と共同開発しました。
他にも、カメラアプリ 「スノー」がARアプリとして人気です。
AR技術はエンターテインメント分野以外でも多岐にわたり活用されています。

スウェーデンの家具メーカー・イケアは米アップル社と共同開発したARアプリ『IKEA Place』では、購入前に家具の配置をシミュレーションすることが可能です。
建設・建築業界では、従来の膨大なCADデータと連携して設計図をARで表示し、ユーザーのイメージを掻き立てます。
戸田建設の「建機AR」では、建設機械の3Dモデルと実際の工事現場映像をARで表示することが可能です。

AR活用(建築・図面)

このように、ARはイメージを強く喚起する特性をもつため、教育・知育・トレーニング事業との相性が抜群です。

この特性を活かし、出版メーカーの学研では図鑑のスマートフォン連携にARを用いています。
3DARアプリ『ARAPPLI』を利用すると、図鑑のコンテンツがあたかも書籍から飛び出したように感じます。
ユーザーは空間内で回転・拡大・縮小など自在に操ることでリアルな観察体験が可能です。

また、本田技研工業株式会社は車体の組み立てトレーニングに実車を用いずにARで行い、省スペース化・省コスト化を実現しました。
ARデバイスの別の利点としては、手順書や指示書が必要な際にハンズフリーになる点が挙げられます。
このような利点から、富士通株式会社の工場などの製造業の現場では保守・点検ソリューションにARが活用されています。

VR(仮想現実)が利用されているサービスの事例紹介

VRサービスもエンターテイメント業界や不動産業界で活用されています。

独ICAROS社が開発したVRフィットネスマシン「ICAROS」は多くのスポーツジムに取り入れられました。
また、ナーブ株式会社のVR内見システムは、現地を訪れなくてもユーザーが物件を内見できる仕組みを提供しています。

コロナ禍で外出が憚られ、打撃を受けた旅行業界でいま注目を集めているのがVRによる旅行サービスです。
JTB社が打ち出した「バーチャル修学旅行」では京都・奈良での伝統文化体験をVR空間内で行えます。
また、株式会社Travel DXの「VR Trip」は、観光可能な箇所を約 20 カ国 90 カ所に増加しました。

一方、コロナ禍で急速に浸透したリモートワークは便利なだけでない”難点”も浮き彫りにしました。
ビデオ会議や”オンライン飲み会”の場では対面のような空気感や一体感を味わえず、物足りなさが指摘されました。
こうした欠点を補う可能性を秘めているのが、空間を共有して距離感を縮める強みをもつVR技術です。
今年8月に米フェイスブック社は、リモートワーク用のVRアプリ「ホライゾン・ワークルームズ」の試験版を公開しました。仮想空間内で一体感を味わいながら、会議や交流を行うことが可能です。

画像:facebookより引用

社内向けVRの他の活用例としては、社員研修があります。
食品・小売業界の米ケンタッキーフライドチキン社や米ウォルマート社では社員研修にVRが活用されており、こうした活用法は工場や建設現場での危険作業のトレーニングにも適しています。

今後、社会に望まれるソーシャルディスタンスの制約を満たしつつ、業務効率を高めるVRはますます欠かせないサービスになることでしょう。

まとめ

AR/VRは対象となる空間が違うため、用途は若干異なるものの、リアルな体験による高い訴求力をもつ点では共通しています。
担当者はデバイスの知識や活用事例だけでなく、遠隔操作・AIなど関連分野の動向にも目を光らせる必要があります。幅広い識見と常識に捕らわれない発想がよりいっそう求められることでしょう。