昨今、日本の労働環境は急激に変化しています。
長時間労働を抑止する「働き方改革」やテレワークへの移行に関連して、近年注目が集まっているのは「ジョブ型」という新しい働き方です。
近年、大手企業を中心に「ジョブ型人事制度」の導入が進んでいます。
本稿では、新しいジョブ型の働き方について解説します。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いは?
近年注目されている「ジョブ型」雇用とは、どのようなものなのでしょうか?
「ジョブ型」雇用とは、仕事の範囲を狭め、より専門性に特化した形にした雇用形態のことです。
「ジョブディスクリプション」とよばれる、スキルや職務経験等を記した職務経歴書で人材を雇用するかどうかを判断する雇用形態です。
欧米の雇用形態はこの「ジョブ型」雇用が一般的です。
対して、日本では官民とも長らく「メンバーシップ(会員)型」雇用の形態が一般的でした。
「専門人材」ではなく「人」として新卒採用し、ローテーションによって定期的に職務を替えながら、いわゆるゼネラリスト型人材の育成を目指すもので年功序列思想の基盤ともいえます。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いはどこにあるのでしょうか?
そもそも日本でメンバーシップ型雇用が根付いた背景には、島国の地理的特殊性や人種の均一性、独自の産業構造などが大きく関係したと考えられます。
日本は歴史的に農村社会であり、近代以降はものづくり産業が盛んでした。
デジタル化はおろか、PCやワープロ、卓上計算機すらなかったような時代。
生産性を上げるためには土地勘や労働者間の関係性の構築がとても重要でした。
人づてにしか情報は得られず、農具や工具にも統一的な規格がなかったため、個人の能力よりチームワークを重んじられ、見ず知らずのよそ者が成果を上げることは難しかったのです。
また、トラブル対応においても界隈に名前が知られ、顔が効くことが大きな要素でした。
このように、職務がきわめて属人的で、替えが効かないことがメンバーシップ型雇用の特徴です。 したがって、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いは、職務に対する専門性・属人性の有無といえます。
ジョブ型が注目される背景や理由は?
なぜ近年、ジョブ型が注目されているのでしょうか?
近年、機械化・IT化・デジタル化による合理化が進み、人やモノなどあらゆる事象で統一規格が生まれ、属人性は良くも悪くも失われ、労働は画一化してきました。
多くの労働は、どこの誰がやっても似たような成果が得られるようになったため、技術や能力の差が以前より際立つようになりました。
すると、メンバーシップ型雇用に拘る必要がなくなり、より高い効率性を求める企業は専門性の高いジョブ型雇用にシフトし始めたのです。
象徴的なのは、2020年、トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明会長がこぞって「終身雇用を守るのは難しい」と口にしたことです。
経済活性化や新たな産業創出を目指すうえで、変化に対応しにくいメンバーシップ型雇用には限界があることを示した発言でした。
自動車業界の場合、今後取り組むべき課題はカーボンニュートラルの達成や交通事故の抑制となっています。
そのためのEVシフトや自動運転化の達成には、新型バッテリーの開発・充電スポットの設置・AI/IoTの開発など、多種多様な専門人材が必要です。
需要の変化に迅速に対応するには、従来型人材のリスキリングでは間に合わないため、「ジョブ型」雇用が不可欠となります。
同様に、DXやデジタル化の分野でも慢性的な人材不足の状況にあり、スピーディな育成が難しいことからジョブ型雇用が必要な例となっています。
加えて、少子高齢化によって人口ピラミッドが崩れ、退職金・年金制度といったメンバーシップ型雇用の利点が失われていることも背景にあります。
他にも、労働人口の減少、人件費の高騰、製造業の停滞、ワークライフバランスの重視、テレワークの浸透など、さまざまな要因によってメンバーシップ型雇用が時代にそぐわなくなったことが、ジョブ型雇用が注目を集める背景となっています。
中小企業でもジョブ型雇用は導入が可能か?
大手企業を中心に導入が進んでいる「ジョブ型」の人事制度。
採用難が叫ばれる中、中小企業でも「ジョブ型」の導入は可能なのでしょうか?
2021年に行われた「ジョブ型雇用」を導入していない中小企業の経営者を対象にした調査(人事評価のクラウドサービスを提供する「あしたのチーム」調べ)によると、「ジョブ型雇用」を導入しない理由の4割が「業務を細かく分けられないから」 と答えています。
続いて多かった理由は「業務が属人化しており、ジョブ型への移行が困難だから」(26.1%)、「現在の雇用制度に満足しているから」(25.2%)でした。
同調査では半数以上の経営者は「ジョブ型」雇用を「導入したい」「興味・関心がある」と答えており、抱えている人事課題として約4割が「優秀な人材の採用が難しい」と応え、「スキルの把握が困難」「賃金の成果連動などの重点配分」がそれぞれ約3割となっています。
つまり、「ジョブ型」へ移行するためには、業務遂行に必要なスキルを分割・把握・定義し、成果連動型の評価制度に結びつけたうえで、質の高い人材確保につなげることが必要だと考えられます。
他に、人材と企業のマッチングの問題もあります。
いくら採用条件を改善しても、求人者に見つけてもらわないと話になりません。
デジタル採用は有効ですが、情報が氾濫している昨今、それだけでは埋もれてしまいます。
積極的に大学や就活イベントに足を運んだり、地域でイベントを開催するなど、地道な努力で自社を最大限にアピールする必要があります。
大手企業や国家公務員の離職率も昨今高まっており、優秀なスキル人材は市場に常に供給されているため、企業側が適切な施策を打てば「ジョブ型」雇用に現実味がみえてくることでしょう。
まとめ
かつては日本の社会や制度にフィットしていたメンバーシップ型雇用。
産業構造の変化に伴って必要なスキルや人材は激変し、雇用形態も変革のときを迎えています。
ジョブ型雇用に関心のある人事担当者は質の高い人材確保に向けて、業務遂行のためのスキルを分類・定義し、雇用制度を見直すことが求められるでしょう。